高校生の頃から生物学と心理学に興味があり,「ヒトの精神活動の源泉を知るには『脳』を知るしかない」と思っていました.大学生の頃に,オリヴァー・サックス『幻覚の脳科学』,アントニオ・ダマシオ『デカルトの誤り』,マイケル・ガザニガ『〈わたし〉はどこにあるのか』などを読み,脳疾患の臨床から見える人間観の深淵に興味を持ちました.その後に,山鳥重『言葉と脳と心』,兼本浩祐『脳を通って私が生まれるとき』,村井俊哉『精神医学の実在と虚構』なども読み,日本にもこうした学問領域が成立していることを知りました.大学の臨床実習では,松田実先生から失語症を教えていただき,西尾慶之先生にてんかんの脳機能マッピングを見せていただいたことで,「これを一生の仕事にしてみたい」と思うようになりました.
私の学び方は,大きくまとめると,「見る・読む・出す」です.
私が初めて取り組んだ症例報告は,ロゴペニック型の原発性進行性失語を呈したレビー小体型認知症でした(Kakinuma, et al. 2020).当時指導医の馬場徹先生には大変な苦労をかけましたが,おかげで私は学会発表と論文執筆が大好きになり,その後は興味深い症例を見つけるたびに,「この症例は症例報告になりうるか?」と問いながら文献を掘り下げることにしています.
臨床業務・学術活動・自己研鑽はそれぞれ重要ですが,これを全てバラバラに行っていては燃え尽きてしまいます.「臨床をしながら,勉強をする.それが結果的に学会発表に繋がる」という形が,臨床家の学び方としては理想だと思います.
Reference:Kakinuma, Kazuo, et al. "Logopenic aphasia due to Lewy body disease dramatically improved with donepezil." Eneurologicalsci 19 (2020): 100241.
神経心理学は歴史的な蓄積が大きく,今年の論文に20世紀以前の論文が引用されることも全く珍しくない分野です.しかしだからこそ,「まだ勉強が足りないので……」などと尻込みしていると,「修行にばかり時間を費やし,いつまでたっても戦場に出られない」ということになりかねません.
「アウトプットを念頭に置いたインプット」と「学会で博識な先生方からどんどん意見をいただく」という二点を大事にすると,コンスタントに成果を出しながら自己のレベルアップも図れるのではないかと思います.
なお,最近はいわゆる生成AIの能力も少しずつ上がっていますが,古い文献や日本語文献が収集から漏れていたり,区別すべき学術用語を曖昧に混同していることも多く,まだまだ専門家レベルの信頼は置けません.内容に関するクリティカルなフィードバックを通して知見を深めていくには,やはり現状では専門家の議論を超えるものはないと思います.
学会で,あるいは雑誌上で,これを読んでいる皆様ともディスカッションの機会が持てれば幸いです.