私は1年間の研修後に精神科に入局し,その後総合病院精神科で2年間の実務を終え,卒後4年目に当時,神経心理学を専門にしていた愛媛大学精神科に移りました.それまでに出会った様々な症状を神経心理学的に捉え,考える事を学んだ時,症状を診ることが面白いと感じました.当時の愛媛大学には意味性認知症(SD)の方が多く通院されていました.アルツハイマー型認知症(AD)の方は質問に対して当惑して取り繕いが見られますが,SDの方は取り繕いが見られず,質問に対して,「わかりません」と即答しますが,この違いに興味を持ちました.ちょうどその頃,78歳の病初期のSDの方が受診されたのですが,この方はわからない質問に対して,ADのような当惑はありませんでしたが,「わかりません」とは答えず,必ず不十分な答えをしました.これがSDの病初期や高齢発症の特徴なのか,アルツハイマー病を合併していたからなのか.このような症例の蓄積が,取り繕いの神経基盤のヒントになるのではないか.そして,ある現症について神経心理学的に考えながら臨床を行うと,それまで見逃していた症例と出会うことができる.これが,私が神経心理学に興味を持つきっかけでした.
卒後9年目に兵庫県立リハビリテーション西播磨病院に移りました.そこは脳卒中等亜急性期の回復期50床,神経難病50床のリハビリテーション病院で,認知症疾患医療センターが併設され,入院では脳卒中やパーキンソン関連疾患を,外来では認知症の診療を行う機会を得ました.言語聴覚士の先生と神経心理学の成書を勉強することで,網羅的な考え方を学び,症例報告で一つ一つの現症を掘り下げ,興味を持った症状の臨床研究を行いました.
現在は高知大学精神科で勤務をしていますが,今後は精神科で見られる様々な現症を,症例を通して明らかにするという臨床を行っていきたいと思っています.
神経心理学では精神科,神経内科,リハビリテーション科をはじめ,心理士,言語聴覚士,作業療法士等が同じフィールドで臨床と研究を行います.様々な臨床症状を対象とする学問で,その知識は臨床能力と直結しており,勉強することで臨床能力のレベルアップを経験することができます.