学部生の初めは,非営利経営に興味がありました.しかし,精神医学のご専門の小此木啓吾先生の講義を受けたことをきっかけに,臨床心理学に興味がひろがりました.その後大学院に進む際にコースをいろいろ調べていく過程で,「失語症」ということばに出会い,「人はどうやってことばを話すのだろうか」と疑問に思ったことが,神経心理学に関心をもったきっかけでした.
「失語症」について知りたいと思ったことから,大学院修士課程では竹田契一先生のもとで神経心理学を学び始めました.こころ,行動における脳の役割や機能を知り,人がどういうものであるのかを少しずつ理解すればするほど,疑問がわきました.修士論文では失語症の言語情報処理過程における聴覚刺激の有効性について考えました.この中で,言語の情報処理にワーキングメモリが関与することを考察し,ワーキングメモリについて知りたいと思うようになりました.大学院博士課程では苧阪満里子先生のもとで,認知神経心理学の観点より失語症や認知症における言語の情報処理過程にワーキングメモリがどのように関与するかについて考えました.
大学院での学びに加えて,神経心理学の実際を多く学んだのは臨床的な活動でした.行動と脳の関係に基づいて,評価分析し,訓練方法を考えることは大変難しいことですが,神経心理学の奥深さともに,人の機能や能力をもっと学びたいと感じる機会となりました.
今後は,障害や困難と社会・経済との関係性を考えることによって,多様な社会の実現の一助になれることを探索していきたいと思っています.
私は言語聴覚士,公認心理師として,神経心理学を専門にしています.共通の学問であっても,それぞれの専門性で焦点が異なり,対象者の方々に役立つ側面も違うことあり,実に多面的な側面をもつ学問と感じます.さらに,神経心理学は高次の精神機能にのみ関与するのではなく,運動や感覚を理解するためにも有用な示唆を与えてくれると考えます.
行動やこころを分かり,それらに困難をもつ方々を支えていくためには,神経心理学は欠かすことができない学問のひとつです.