日本神経心理学会

神経心理学への誘い

私はこうして学んだ

優秀論文受賞者から:第14回
野川 貴史 先生(JA長野厚生連鹿教湯三才山リハビリテーションセンター鹿教湯病院心理療法科)

出身校:早稲田大学教育学部,早稲田大学大学院教育学研究科
現在の勤務先:JA長野厚生連鹿教湯三才山リハビリテーションセンター鹿教湯病院心理療法科

1)神経心理学に関心をもたれたきっかけ

2)これまで神経心理学をどのように学ばれてきましたか?今後どのように活動していきたいと思いますか?

 就職先がたまたま神経心理学領域だったことがきっかけです.就職した時点では神経心理学について微々たる知識しかありませんでしたので,役割を果たせるよう必死に学びました.患者さんを診療し,文献で調べ,それで分からなければ上司の平林に尋ねるというon the job trainingです.そして全例を報告書として纏めることが力になったように思います.その中で,一見すると不可思議な症候や,病巣と症状の一致しない症例等について,臨床症状を分析し,脳画像を読み,学術所見や既報事例と照合すると,裏付けのある立体的な仮説が構築できることに徐々に面白みを感じるようになりました.
 物体方向失認の研究はそのひとつですが,それ以外では目前の課題を解決するための試行錯誤がその時々の活動になってきました.ここ10年弱最も重要な課題は運転支援で,院内外の運転支援体制の構築や検証をしたり,長野県障がい者運転支援連絡会を立ち上げ県内機関の連携体制を拡充したりといった活動を行ってきました.
 もうひとつ関心があるのはワーキングメモリの改善に寄与する活動の探索です.目下,健常者で注意や即時記憶の容量増大を示している楽器演奏に注目し,少数ですが適性のある患者さんへ適用を試みています.またマインドフルネス瞑想も扱いますが,瞑想には禅病や偏差と呼ばれるリスクもあるため,導入には慎重です.実は私自身も数年前これにかかり,克服するまでかなり苦労した経緯があります.どうすれば安全により効果を享受できるか.瞑想を始めとした精神世界の多様で豊穣な実践の中からその方法論を見出し,認知リハに援用,検証していければ,と考えています.

3)これから神経心理学を学ぼうとされる方々にメッセージ

 神経心理学は既に成熟し,残されたフロンティアは少ないようにも見えますが,一人一人の患者に対するリハビリテーションという観点ではまだ課題が山積しています.さらに心脳問題には未知の領域が横たわっています.脳機能画像研究が一層精緻さを増し意識局在に肉薄せんとする一方で,臨死体験に関する記録,生まれ変わりに関するIan Stevensonの一連の研究,臓器移植後の記憶転移事例など,心的現象の脳局在と矛盾する信憑性の高い報告は多数認められます.神経心理学を基盤に,このような知見までも統合的に論じられるような若手の方々が,これから大きなパラダイムシフトを担っていかれるのではないかと期待しています.

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